【インドの絶景】5日目 バラナシの悲劇
旅中での出来事ひとつがその旅すべての印象を変えることはざらにある。それは、人との出会いであったり、素晴らしい景観であったりと様々であるが、その逆もまた然りである。
日本人は一般に旅を楽しめないと言われる。確かに彼らが語る旅行記はトラブルにつぐトラブルで、聞き手に「大変だったね、すごい経験をしたね」と言わせることを目的としているようにも思う。これは憶測に過ぎないが、日本という心地良い空間を飛び出し、異文化の地で自らを「悲劇のヒーロー」にすることで、自己満足するのが日本人流の旅の楽しみ方かも知れない。
ニューデリーからバラナシへの移動(飛行機)
その日、僕はデリーからガンジス川沿いの都市バラナシへと移動するため、ガンジー国際空港へと向かっていた。
インドの国内線は安く、1万円ほどでインド国内ほとんどの土地に飛ぶことができる。ビールの財閥から参入したキングフィッシャー航空や、ジエットエアウェイズなどが有名である。
キングフィッシャー航空
値段
10500円
リコンファーム
必要
所要時間
1時間弱
出発の2日前に、搭乗予定だった1週間後の便が欠航になったり、直行便が乗継便に変更したりと、なかなかスリリングだった。
手荷物をカウンターで預け、国内線のゲートをくぐった時、体に違和感を感じた。
デリーに着いてから、日程的に無理をしていたこともあり、すこし疲れているかなと思ったが、しんどさは増すばかり。
どうやら、発熱したようだった。日本から持ってきた薬は手荷物の中で、ちょうど預けたばかり。このままバラナシに着くまで地獄だと思った。空港の雰囲気は好きだが、この時、フライトまでの1時間半は、ただ辛かった。
飛行機に乗ると席は空席が多く、横になるスペースがあった。今思うと、日本の航空会社なら横になっている病人は下ろされていたかもしれない。2時間ほど、カジュラホを経由してバラナシの空港に到着した。
これはバラナシからコルカタに向かうときに撮ったものだが、この空港はできて6ヶ月という。
柱をみると6年の間違いではないかと思うが、たしかに6ヶ月と言われた。経年劣化か、柱を持ってきたのか、謎である。
空港の病院にて
インドの空港(バラナシ)には、無料の病院がついていた。無料といってもどこまでの範囲か分からなかったが、とにかくしんどくて、それどころではなかった。
狭い部屋の中には、診察用のベッドが2台だけ。さすがに6ヶ月ということもあってか、想像していたより綺麗だった。
体温を測ると39度。久々の発熱ということもあり、しんどいわけだ。そこから、血液検査や脈をとったりといろんな検査をされる。使っている針がとても怖かったが、さすがに新品を袋から出していた。
インド人の医者はとても親切な人で、君は日本人だが中国語なら話せるという。中国語で話されたら英語よりも困る。でも彼らは日本語と中国語は同じような言語だと思っているらしい。
僕も中国語を大学で勉強しているといったのが間違いで、そこから彼は早口の中国語で説明を始めた。全く意味がわからない。説明するのも面倒だったから聞き流すことにした。
5時間ほどベッドで寝ていた。目を覚ました僕に、点滴を3個に注射を10本以上打ったと誇らしげに語るお医者さんに、いつお金を請求されるのかと思うと泣きそうになった。
おかげさまで、さっきまでのしんどさはきれいさっぱり無くなっていた。インドの薬は恐ろしい。
外は暗くなっていて、空港からホテルまでどうしようかと思っていると、親切なお医者さんが、「僕の車で送ってあげるよ」と言ってくれた。なんて良い人か。
彼の車は中にベッドまであるイカした車だった。
「さすがにサイレンは鳴らせない。」と照れくさそうに話す医者に、僕は最高級の愛想笑いを返しておいた。
市内に向かうまでに寄った場所が2つある。
1つは薬屋で、インドのとてもよく効くお薬を処方された。これのおかげで僕はこのあと病気が再発することはなかった。
もう一つはATMである。保険の効かない現地で請求された金額はRs20000を超えていた。たしかに日本の感覚で行くと無保険で35000円ほどだと安い。
しかし、学生ならそのお金でインドに1ヶ月ゆうに滞在できる。僕が現金を持ち合わせていないこと、学生であることを説明すると、丁寧にATMの前で降ろしてくれたというわけだ。
Rs20000を海外キャッシングでおろして代金を払い、領収書と診断書は帰りに空港で渡すと言われた。
治療費と薬代に学生割引でRs16000。バラナシにいる間は不安だったが、しっかりと帰りに書類をもらうことができ、帰国してからクレジットカードの付帯保険を請求できた。
すべてがインドだったが、このお医者さんが親切であったことは間違いなく、連絡先と名前を教えてくれて、なにかあったらいつでも電話してこいと言ってくれた。
後から、もっと安く診てもらう方法もあると聞いたが、安全であったし、保険でお金が帰ってくることを思うと良い選択だった。
ちなみに無料の病院とは、診察が無料という意味で、治療が無料ではない。
バラナシで風邪を引いたときは、ぜひとも空港のホスピタルを利用されることをお勧めしたい。